エストロゲンによる肥満抑制のメカニズムを解明することは、閉経後女性の肥満防止という観点からも重要な課題である。我々は、脂肪合成の律速酵素の1つであるlipoproteinlipase(LPL)の転写がエストロゲンでどのように制御されているのかという観点からこの課題に取り組み、今年度は脂肪細胞の細胞株である3T3L1細胞を用いた実験系でエストロゲンによるLPL遺伝子の転写抑制のメカニズムを明らかとしつつある。(1)脂肪細胞にエストロゲン受容体を安定的に発現させ、エストロゲンを作用させると明らかに脂肪の蓄積が抑制されるとともに、LPL遺伝子の発現量の減少がおこった。(2)LPL遺伝子の-1625から-1573bpの間に存在するAP-1様の遺伝子配列がエストロゲンによるLPL遺伝子の転写制御に必須であることを明らかとした。(3)この遺伝子配列が確かにAP-1 siteとしての機能をもち、さらに、この配列をprobeとするgel mobility shift assayでこの部分に特異的に結合する核蛋白が存在することも明らかとした。(4)さらに、ステロイドホルモンを含む多くの細胞内情報伝達機構のco-activatorであるcyclic AMP binding protein bindingprotein(CBP)を過剰発現させると、このエストロゲンによるLPL遺伝子の転写抑制を解除することも明らかとした。この遺伝子配列は、今までに報告されている種々の遺伝子とは相同性がみられず、新しいエストロゲン応答領域であろうと思われた。
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