研究概要 |
糖尿病網膜症の病態に関連のあるサイトカイン、増殖因子の検討を行った。糖尿病患者の前房水、硝子体液を採取して、各種のサイトカイン、増殖因子の濃度を測定した。55眼の糖尿病眼からのサンプルを測定した。5眼の非糖尿病眼のサンプルを対照とした。血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の濃度を測定したところ、活動性増殖網膜症で、対照、非増殖網膜症、増殖停止性網膜症に比べて有意に上昇していた。非増殖網膜症の中で検討したところ、VEGFは血液眼柵機能の障害と相関があり、非増殖網膜症での血液眼柵機能の低下に関連する可能性が示された。増殖糖尿病網膜症で硝子体濃度の上昇がみられた因子としては、VEGFのほかにインターロイキン-6(IL-6),トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)が検出された。また免疫組織化学的にはアクチビンA(Act A)の発現も検出された。これらの因子が血管新生に関連する培養細胞系の制御にどのように寄与するかを細胞生物学的に検討した。VEGFは血管内皮細胞のプロテアーゼ活性化、増殖促進、遊走促進、管腔形成を促進し、血管新生の促進作用は血管内皮細胞に対する直接作用であることが明らかになった。一方、TGF-βはプロテアーゼ産生、増殖、遊走、管腔形成を全て抑制した。生体内に直接TGF-βを投与すると血管新生を促進した。この一見矛盾する現象は、TGF-βが間接的に血管内皮機能を制御していることを示唆した。TGF-βスーパーファミリーに属する因子である、Act AについてもTGF-βとの比較のために検討した、生体内ではAct Aは血管新生を促進せず、培養細胞の上記機能の促進も見られなかったことから、Act Aについてはその直接作用が生体内で見られているのが確認された。現在これらの因子の糖尿病網膜症病態における意義について検討している。
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