研究概要 |
ヒト歯周炎の主要な原因菌の1つとされるPorphyromonas gingivalisの初期感染をブロックすることにより,あるいはデンタルプラークの凝集菌体を分散させることにより,上記疾患の予防が可能になるはずである。我々は,これまでの研究により,P.gingivalisの宿主細胞表層への付着や異種菌体との凝集反応に際して,P.gingivalisの線毛が深く関わっていることを示した.特に前者の場合には細胞表面の基質タンパクに内在される線毛との結合部位(cryptitope)が,同菌の産生するプロテアーゼにより顕在化し,線毛の付着が著しく亢進することを明らかにした.同プロテアーゼはアルギニン残基をC末端に遊離された.実際に,種々の合成ジペプチドGly-Xを作製し,これを固相化させたアフィニティークロマトグラフィーの結果から,精製線毛がGly-Argと選択的に相互作用することが示された.ついで,P.gingivalisの産生するプロテアーゼで処理したフィブロネクチンに対する線毛の付着に対するL-Argおよびその誘導体の阻害作用を検討した.その結果,Gly-ArgおよびC末端あるいは両者にArg残基を持つペプチドはいずれも明確な阻害活性を有し,特にブラジキニン(両末端にArgを有する)はL-Arg単独の3000倍にもおよび阻害活性を示した.さらに,NーおよびC-末端のArg残基を除いたペプチドについて調べた結果,C末端Argを除去したブラジキニン([Des-Arg^9]-ブラジキン)は阻害活性がブラジキニンに比して著しく低下したが,N末端を除いたそれはほとんど変化が認められなかった.BIAcoreシステムを用いた検討によっても同様の知見が得られた.これらの結果から,C末端にL-Arg残基を有するペプチドは,P.gingivalis線毛と宿主細胞表面の阻害因子として作用する可能性が強く示唆された.次年度ではこの点を中心にさらに検討する予定である.
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