歯科用接着剤に機能傾斜を付与するには、硬化後の物性に傾斜を持たせるものと硬化速度などのプロセスに傾斜を持たせるものが考えられる。前者についてはフィラー粒子の密度勾配を設けることで、後者については接着性成分の濃度勾配を設けることで実現可能であると考えて本課題を計画・遂行している。 グラスアイオノマーセメントには高分子酸が接着性成分として含まれており、電場中での高分子電解質の電気泳動により濃度勾配を設けることや、多分散の高分子酸を用いれば分子量分布を発生することが可能である。このような濃度、分子量の違いによって硬化速度が調整されると考え、泳動装置を引き続き設計・作成中である。 一方、今年度はフィラー粒子の沈降による接着剤中の密度勾配発生を試みた。グラスアイオノマーセメントを想定し、種々の濃度・温度のポリアクリル酸中にダイヤモンドバーによる切削で調製した象牙質粉末を添加し、十分撹拌・懸濁させた後、分光光度計を用いて濁度の経時変化を記録した。なお、沈降粒子の溶解(脱灰)をさけるため、ポリアクリル酸は中和してpH7とした。ポリアクリル酸濃度が高いほど、温度が低いほど象牙質粉末の沈降は遅く、媒質の粘度が決定因子になっていると考えられるが、用いた粒子が多分散であったため、濁度の減衰曲線の解析は煩雑になった。これについては、ふるいを用いて粒度分布を狭くした粒子を用いることにより、濁度曲線の減衰過程(沈降速度)と粒径の関係を解析し、重力方向の密度分布を推定することが可能であるという見通しを得た。グラスアイオノマーを想定したこの系において、今後ガラス成分を添加して硬化させ、固体試料中のフィラー分布を顕微赤外分光法により確認する計画である。
|