歯科用接着剤・合着材のうち、グラスアイオノマーセメントのように高分子酸と固体分散成分からなる系においては、分散固体の沈降速度の差によって組成傾斜の発生が可能であることが示された。沈降成分の沈降速度差を調節する因子としては(1)媒質中の高分子の鎖の広がり、(2)高分子の濃度、(3)分散粒子のサイズ、が重要であることが確かめられた。今後このほかにも、異種フィラーが混在する場合、電解質が共存する場合、粘度を変化させた場合等についても実験を行った上で、これらの関数として沈降ひいては組成傾斜がどのような数式で表現されるかを検討することが課題として残された。また、当初計画しながら実現に至らなかった、荷電成分の電気泳動による組成傾斜付与とその確認についても、検討を続けたいと考えている。 一方、研究の過程で副次的に以下のような成果も得られた。 1)蛍光プローブを用いた高分子高次構造の解析:CD等で高次構造を容易に解析できるコラーゲンのようなタンパク質とは異なり、特徴的な発色団を持たないPAAのような高分子でも、蛍光色素を距離プローブとして導入することで、間接的ながら高次構造に関する情報を得られることを見出した。 2)DSCの接着研究への幅広い応用:象牙質への接着における接着剤成分-コラーゲン相互作用を、コラーゲンの変性挙動から考察する手法を確立したのをはじめ、接着に関与する成分の熱物性変化から接着のプロセスを検討するにあたってDSCが有益な測定手段であることが明らかになった。 3)自由度の高い自動滴定装置の作製:汎用のプログラミング言語を用いて、シリアルポートを持つイオンメータとオートビュレットをパーソナルコンピュータから簡単に制御できる全自動滴定システムを完成させた。このシステムは若干のプログラム変更でpHコントローラに転用することも可能である。
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