研究概要 |
我々は,歯周靭帯由来線維芽細胞(periodontal ligament-derived fibroblast:PLF)の無血清培養系を確立し,PLFの増殖・分化にfibroblast growth factor(FGF)-FGF受容体(FGFR)-1系が重要な働きをしていることをすでに報告した。本年度は,歯周靭帯由来上皮細胞(マラッセ上皮遺残由来細胞:ME)の無血清培養系を確立し,MEの増殖におけるFGF-1,-2,-7/keratinocyte growth factor(KGF)の影響ならびに同細胞におけるFGFRの発現を蛋白質および遺伝子レベルで検討した。さらに,MEとPLFの細胞間相互作用ならびにMEと口腔粘膜由来上皮細胞(OE)および唾液腺由来上皮細胞(SGE)との細胞内分泌学的相違について無血清培養系を用いて検討した。 [方法]MEはヒト健全小臼歯歯根中央より分離し,基礎培地としてRPMI1640とDMEMの混合(1:1)培地(RD)で培養した後,MCDB153HAA培地に種々の因子を加えて継代培養を行った。接着因子としてはI型collagenを用いた。FGF-1,-2,-7/KGFの細胞増殖に及ぼす影響を検討し,さらに,PLFにおけるFGF-7/KGFの発現を免疫組織学的に検討した。また,reverse transcription-polymerase chain reaction(RT-PCR),PCR-Southern hybridizationおよびribonuclease protection assay(RPA)を用いて各細胞におけるFGFR遺伝子群の発現を検討した。 [結果および考察]FGF-1およびFGF-7/KGFはMEとSGEの増殖を濃度依存的に促進した。しかし,FGF-2は促進作用を示さなかった。一方,FGF-1,-2,-7/KGFのいずれもOEの増殖を促進した。RT-PCRおよびPCR-Southern hybridizationの結果,MEおよびSMEはKGF受容体であるFGFR2-(IIIb)mRNAのみを発現していたが,OEはFGFR1-(IIIc),FGFR2-(IIIb),FGFR3-(IIIb),FGFR4 mRNAを発現していた。さらに,免疫組織染色,RT-PCR,PCR-Southern hybridizationおよびRPAの結果,PLFはFGF-7/KGF蛋白並びにmRNAを発現していた。以上の結果から,MEの増殖・分化はPLFが発現・分泌するFGF-7/KGFによりパラクライン的に維持されていることが示唆された。さらに,FGF受容体遺伝子の発現を指標にすると,MEはSGEに類似した細胞である可能性が考えられた。 [結論]1.MEの無血清培養系を確立した。2.MEの増殖は,FGF-1およびFGF-7/KGFにより促進された。3.MEは,KGFRであるFGFR2-(IIIb)遺伝子のみを発現していた。4.PLFは,FGF-7/KGFを発現,分泌していた。歯周靭帯組織の増殖・分化は,その主な構成細胞であるMEとPLFの細胞間(上皮-間葉)相互作用により制御されていることが考えられた。
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