研究概要 |
本研究では,多層断層X線写真や磁気共鳴影画像(MRI)により顎関節病態を正確に判定し,その結果と生化学的分析所見との関係を明らかにすることを目的とする。そこで、本年度は、顎関節内障のなかで最も重篤な病態を示す変形性顎関節症(OA)を対象として,1)下顎頭位と顎関節病態の関連性,2)顎関節機能と顎関節病態の関連性,3)滑液の生化学的性状と顎関節病態の関連性,4)関節軟骨の組織構造と顎関節病態の関連性、の4点の検討を行った。 その結果、下顎頭位は顎関節内の病態、すなわち顎関節内障の進行度に応じて特異的に変化し、これが下顎頭に作用する機械的負荷の特性(大きさ、性状)を決定する可能性が示唆された。また、関節機能も顎関節内の病態に応じた特徴的パターンを示すことが明らかとなった。これらの所見は、変形性顎関節症を鑑別するための重要な指標となる。さらに、ある体系に基づく治療を受けたOA患者群について、治療前後の下顎頭形態の変化を検討したところ、治療による咬合、顎顔面形態、とりわけ下顎骨の位置や形態の変化に呼応した適応変化を呈することが明らかとなり、矯正歯科治療の指針とその意義が強く示された。 一方、滑液ならびに関節軟骨の分析については、収集した試料が十数例と未だ不十分であるが、現在までに、OA患者の関節軟骨層には高いレベルのCMP(軟骨基質タンパク質)が分布していることが明らかとなった。このことから、変形性顎関節症は関節軟骨層に何らかの炎症性破壊が進行した結果である可能性が強く示唆された。さらに、培養軟骨細胞に持続的伸展力を負荷した実験系において、細胞の増殖、分化が抑制されたことから、器質的病変の初発因子として関節軟骨に対する機械的負荷の不均衡が特筆される。この点については、既に昨年の第57回日本矯正歯科学会(東京)において公表したが、さらに平成10年度日本顎関節学会において発表する予定である。
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