研究概要 |
近年、リパーゼとビニルエステルを用いるアルコールの光学分割反応が広く利用されているが、副生成物のアセトアルデヒドが酵素を不活性化したり、また、アシル基部分を変えたビニルエステル類の調製が困難であるなどの問題があった。我々は昨年度までの研究で、カルボン酸からケテンアセタール型のアシル化剤[H_2C=C(OEt)OCOR](1)の簡便な合成法を確立し、1を酵素反応に用いて、従来法以上に高い反応性と光学分割率を示し、かつ、副生成物による酵素の失活も起こさない極めて有効な方法を見出した。更に、これまで殆ど成功例の無かった2,2-二置換-1,3-プロパンジオールの非対称化による不斉四級炭素の合成法を見出した。 本年度は、後者の不斉四級炭素構築法の一般化と展開を図ると共に、構造修飾された1を用いて、アルコールの酵素的光学分割と導入されたアシル基の化学反応がタンデムに進行する、全く新しい不斉合成法を開発した。すなわち、マロン酸モノメチルからほぼ定量的に調製した1-ethoxyvinyl methyl malonateをそのまま(2-furyl)carbinol類及びリパーゼLIP(Toyobo)と共にアセント中室温付近で攪拌すると、光学分割に続いて、導入されたアシル基が分子内のフラン環とDiels-Alder反応を起こし7-oxabicyclo[2.2.1]heptene類が高い光学純度で得られることを見出した。本法は、カルボン酸とアルコール原料に、one-potで、最高99%以上の環化生成物を高収率で与える極めて効率的な新しい不斉合成法である。更に本研究で、リパーゼがDiels-Aider反応にも影響を及ぼし、エナンチオおよびジアステレオ選択性を向上させることを初めて見出した。これは、酵素がペリ環状反応に関与する例としても極めて稀であり、現在、この現象を更に検討中である。
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