研究概要 |
近年、ビニルエステルを用いる酵素触媒下のアルコールの光学分割反応が不斉合成に広く利用されているが、副生成物のアセトアルデヒドによる酵素の不活性化や、アシル基部分を変えたビニルエステルの合成に問題があった。我々は、カルボン酸からケテンアセタール型アシル化剤[H_2C=C(OEt)OCOR](1)の簡便な合成法を確立し[JCS1,1993]、1を酵素反応に初めて用いて、従来法以上に高い反応性と光学分割効率を示し、かつ、副生成物による酵素の失活も無い極めて有効な方法を見出した[Tet.Lett.,1996]。本研究では、1を用いる新しい酵素的光学分割法の実用化と、従来法ではできなかった新しい不斉合成法の開発を目的とした。以下に本研究で得た成果を記す。 1. 我々の新手法を種々の2級アルコールの光学分割に適用し、本法の汎用性を実証した。また、1の調製とアルコールの光学分割を連続して行うone-pot法を開発し、単離困難なアシル基を有する1にも適用できることを明らかにした。 2. プロキラル2,2-二置換-1,3-プロパンジオールの酵素触媒非対称化は、従来法では、生成物のアシル基転位によるラセミ化のために殆ど成功例が無かったが、我々は、ベンゾイル基を有する1a(R=Ph)を用いてこの問題点を解決し、不斉四級炭素の新合成法を見出した。本法を応用して、抗腫瘍活性フレデリカマイシンAの不斉四級炭素の構築に成功し、現在、不斉全合成研究が順調に進行中である。 3. 対応するカルボン酸から用時調製した1-ethoxyvinyl methyl fumarate(1b)を(2-フリル)カルビノール類及びリパーゼと共に室温付近で撹拌すると、光学分割に続いて、導入されたアシル基の分子内Diels-Alder反応が進行し、トリシクロ体が最高99%ee以上の光学純度で得られる新しいタンデム不斉合成法を開発した。更に、リパーゼがDiels-Alder反応のエナンチオおよびジアステレオ選択性を向上させることを初めて見出した。
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