研究概要 |
一酸化窒素NOは,重要な情報伝達物質である一方,NOの産生過剰は種々の疾患の原因となり,特に免疫応答並びに慢性関節リウマチを含む炎症反応のメディエーターとしても働いている.申請者らは既にニシキギ科植物クロヅル由来のTriptoquinoneA(TQA)がデキサメサゾンに匹敵する誘導型の合成酵素(iNOS)遺伝子発現抑制作用を有することを明らかにしている.そこでTQAがその構造内にquinone骨格を有することに着目し,benzoquinone(BQ)をはじめとするいくつかのquinone誘導体についてNO産生とiNOS遺伝子発現に対する効果を検討した.その結果,BQはLPS/interferon-γの刺激で誘導されるNOの産生を強く抑制した.一方,naphtoquinone誘導体であるVitaminK3(VK3)は,NOの産生を逆に顕著に増強した.さらにこれらの効果はiNOSmRNA発現量やそれを制御する転写因子NF-κBのp65サブユニットの核移行量ともきれいな相関関係にあることを突き止めた.即ち,quinone骨格はNF-κBを制御することでiNOSの活性を正負両方向に制御でき,その差異はより上流で起こっていることを示唆した.加えてBQはいくつかの遺伝子のpromoterからの発現を強力に阻害することも見いだした.これらの知見はiNOS遺伝子の発現という新しい指標を基にした,より毒性の低い新規抗炎症薬の開発にプロトタイプを提供するものと思われる.また抗癌剤のcisplatinの重篤な副作用である腎傷害の発症機構にiNOSによるNOの産生が深く関与していることをラットを用いたin vivo実験により証明した.
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