近年担癌宿主の免疫抑制状態を解除するとともに、宿主が元来有する抗腫瘍免疫反応を惹起することで安全かつ効果的に癌治療しようとする免疫遺伝子治療が学際的に注目されている。中でもサイトカインのimmunomodulator機能を期待して、一旦宿主から取り出した癌細胞や抗腫瘍リンパ球などにサイトカイン発現遺伝子を導入し、これら細胞を担癌宿主に移植するex vivo遺伝子治療が盛んに研究されている。しかしながら次世代の遺伝子治療を考えた場合、一旦生体外に取り出した細胞自身の安全性などの危惧は言うに及ばず、労力、簡便さなど全ての点から、in vivo直接遺伝子導入法が望ましいことは自明の理である。そのため現在では、in vivo直接遺伝子治療の開拓に向けて、in vivo直接遺伝子導入・発現効率および安全性に優れたベクターやシステムの開発が急務と認識されている。一方我々が開発した膜融合リポソームは、in vivoにおいてもリポソーム内に封入したあらゆる物質を細胞質に効率よく、自由に直接導入できるキャリアーである。以上の観点から本研究では、TNF-α発現プラスミドをモデル遺伝子として用い、膜融合リポソームのin vivo直接遺伝子導入ベクターとしての有用性を評価し、癌免疫遺伝子治療に適用しようと試みた。TNF-α発現遺伝子封入膜融合リポソームをS-180担癌マウスの腫瘍支配動脈内へ直接 in vivo投与したところ、固形癌を劇的に退縮させた。本結果は、これまで困難であったin vivo直接遺伝子導入による癌治療を可能にする、全く新しいin vivo遺伝子治療戦略を提示するものと考えられた。また、T細胞delation assayにより、本抗腫瘍効果発現には宿主の抗腫瘍免疫系の関与が推察され、将来の癌免疫遺伝子治療への応用が期待された。以上、当初計画通りの成果が得られたものと考えられた。
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