将来の遺伝子治療を考えた場合、導入した遺伝子がすべての目的細胞で効率よく発現する事が望ましいことは言うまでもない。しかし、細胞内に導入された遺伝子が転写されるためには核内に移行する必要があり、その確率は核膜が一時的に消失する増殖中の細胞においてすら約10^4と非常に低い。従って、もし細胞質内で直接遺伝子発現を行うことが出来れば、遺伝子発現効率は格段に上昇すると考えられる。膜融合リポソームは導入する遺伝子の形状や大きさに制限がなく、どのような遺伝子でも導入可能であることから、下記に示す項目について検討を行い、目的に応じた遺伝子発現を可能にするための基礎的検討を行った。1)細胞質での遺伝子発現システムを構築する。2)本遺伝子発現システムを用い、その遺伝子発現特性・有用性を検討する。その結果、細胞質内遺伝子発現系として、はじめてT7遺伝子発現システムの構築に成功すると共に、本T7遺伝子発現システムが、確実に導入遺伝子が細胞質内で分解するという安全性を確保したうえで、非増殖性細胞でも効率よく、迅速に遺伝子発現させ得ることが判明した。以上の結果は、本T7システムを用いることで、従来までの非ウイルスベクターに共通した導入遺伝子の核移行効率の乏しさを回避し得ることを示しており、安全かつ効率の良い遺伝子治療技術の確立に大きく寄与するものと考えられる。
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