研究概要 |
ヒト体細胞は細胞分裂の度にDNA末端が短縮するため,有限分裂可能回数をもつ。DNA末端を延長する特殊な逆転写酵素であるテロメラーゼをもつ細胞は、分裂ごとの末端短縮を補償できるため無限分裂可能(不死化細胞)である。ヒト体内では,テロメラーゼは生殖巣と癌組織にのみ高い活性が発現し,大部分の組織ではほとんど検出されない。テロメラーゼはヒトの癌化に重要な役割を果たすものとして注目される。しかし,テロメラーゼ酵素の精製やcDNAクローニングはきわめて困難で,全生物を通じて成功していなかった。本研究課題は,高いテロメラーゼ活性を持つ哺乳類組織からテロメラーゼを精製し,そのアミノ酸部分配列決定からcDNAをクローニングし,さらに構造類似性からヒトテロメラーゼcDNAをクローニングし,ヒトテロメラーゼの性質を調べようとするものである。高いテロメラーゼ活性をもち,材料入手の容易な哺乳類組織としてブタ精巣を出発材料とし,酵素を抽出して各種のカラムクロマトグラフィーによって,最終的に数本のタンパク質バンドにまで精製した。この過程を繰り返して,アミノ酸分析に必要なまでの量を集積するよう実験を進めた。ところがこの間アメリカを中心とする研究者が,酵母および原生動物といった下等生物からテロメラーゼの触媒ユニットと思われる遺伝子のcDNAクローニングを報告し(平成9年3,4月),次いで,これとの構造類似性から得たヒトcDNA(hTRT)のクローニングを報告した(平成9年8月)。東工大の石川らも同様の方法でクローニングを進めていることが分かったため,得られたcDNAの機能解析などを共同して進めることとした。その結果,hTRTcDNAをテロメラーゼ活性陰性のヒト正常細胞に導入することで活性が発現すること,ヒト培養細胞や癌を含めた組織検体で,テロメラーゼ活性とhTRT発現とが良く相関することなどが明らかになった。
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