研究概要 |
本研究は,抗癌剤を選択的に腫瘍組織へ送達し,癌細胞のエネルギー代謝を特異的に遮断することにより抗腫瘍効果を発現させる最適な薬物送達システムを開発し,その実用化への基礎研究を目的とした. まず,抗癌剤のキャリアーとしてリポソームを選択し,細胞内動態制御のストラテジーを構築した.pH-感受性リポソームを用いることにより,エンドサイトーシスにより細胞内に取り込ませたのち,ライソゾームでの分解を回避して細胞質中へ脱出させることが可能となった.さらに,核局在化シグナルを付与することにより,細胞質中へ放出させた高分子を能動的に核内へ輸送させることに成功した.この細胞内動態制御法は,種々の高分子化合物のための細胞内動態制御キャリアーとして有用である. 一方,癌細胞においてII型ヘキソキナーゼの転写活性が亢進していることが明らかとなり,核内転写レベルでの遺伝子発現抑制を行うことを目指した.そのためにまず,核内へ送達した遺伝子の定量法の開発が重要となるので,定量法の開発に着手した.その結果,PCRを利用して核一個あたりの遺伝子送達量を定量する方法の確立に成功した.その結果,核内に送達した遺伝子量と発現量との関係を世界で初めて明らかにすることができた.今後は,II型ヘキソキナーゼの転写活性を抑制する遺伝子の最適化を図るとともに,キャリアーの最適化を行い,in vivoに適用可能な人工遺伝子キャリアーを開発したい.
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