亜鉛フィンガー型DNA結合モチーフは、その繰り返し構造ゆえに約3塩基ずつ認識するモジュールの連結体として見ることができ、この単純な構図は従来のDNA結合モチーフにはない特徴であり、新たな塩基配列を認識する分子の合理的な設計に大きな道を開いている。また、亜鉛フィンガー型転写因子Spl由来のDNA湾曲とSplの転写との関連研究から、DNAの湾曲を制御することによって特定の遺伝子の転写・発想の制御が可能であることがわかり、新しい遺伝子治療の概念を生み出している。本研究ではこのような亜鉛フィンガーによるDNA認識・DNA湾曲を基礎にした新しい遺伝子制御分子の創製を目指し、幾つかの価値ある知見が得られた。転写因子Spl中の3個のC_2H_2型亜鉛フィンガードメインを1単位とし、これを二つおよび三つリンカーペプチドを介して結合させることによって、6個ならびに9個の亜鉛フィンガーをもつマルチフィンガー蛋白質の創製に成功した。これらの蛋白質は予想された18および27塩基対の長いDNA配列に特異的に結合することが強く示唆された。他方、亜鉛フィンガー間のリンカーを柔軟で長いものにすることによって、蛋白質の二つのDNA結合部位間でDNAを湾曲化させることにも成功した。このような新規亜鉛フィンガー蛋白質の創製は遺伝子制御、特に人工リプレッサーとしての開発に大きな道を拓いたと考えられる。
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