研究概要 |
我々は,酵素の基質遷移状態概念に基づいて,ヒドロキシメチルカルボニル基を遷移状態ミミックとして有するKNI-272をはじめとする高活性のHIVプロテアーゼ阻害剤をデザインした.そして,構造生物学的解析により,ヒドロキシメチルカルボニル基が理想的な遷移状態ミミックであることを示した. また,薬剤耐性を獲得した変異HIVプロテアーゼとそのアナログを固相法により化学合成を行い,基質や低分子阻害剤と複合体を形成して相互作用の解析をX線結晶解析,NMR,分子モデリングなどの手段を用いて行った.すなわち基質,阻害剤分子単独のコンフォメーションと,複合体形成時のコンフォメーションとの詳細な比較解析を行った. この結果を基に,阻害剤の低分子化を進めて,ジペプチドHIVプロテアーゼ阻害剤KNI-577が高い阻害活性と抗ウイルス活性を示した.さらにリードオプチマイゼーションを進めて得られたKNI-764は,市販のリトナビル等のHIVプロテアーゼ阻害剤が阻害活性を示さない合成HIVプロテアーゼ誘導体に対しても,高い酵素阻害活性を示すという興味深い結果が得られた.この結果は,人類と変異HIVとの共生への道を一歩踏み出したものと言えよう. さらに,ジペプチド型HIVプロテアーゼ阻害剤と逆転写酵素阻害剤とのプロドラック型コンジュゲートにすることにより細胞膜透過性に優れ,相乗効果を持つ新しいタイプの高活性抗HIV薬を見いだし,"ダグルドラッグ"の概念を提案した.
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