研究課題
基盤研究(B)
本研究課題は、angiotensin-converting enzyme(ACE)とneutral endopeptidase(NEP)の活性部位構造の類似性に着目し、単独で両酵素に対する阻害作用を持つDual Inhibitorsの抗高血圧薬としての開発を目的とした。既に報告されているリード化合物のうち、BMS-182657(BMS)に着目してその関連化合物の合成と薬理学的スクリーニングを試みたがより強力な阻害活性を有する化合物を見い出すことができなかった。化合物の探索と平行して、薬物の両酵素阻害作用の薬理学的特徴を捉えるため、BMSの降圧および利尿作用について、正常血圧ラット(Wistar)・高血圧自然発症ラット(SHR)・2腎性1狭窄高血圧ラット(2K-1C)・DOCA-salt高血圧ラット(DOCA)・Dah1食塩感受性ラット(DS)を用いて検討した。さらにDSを用いて、心房性ナトリウム(Na)利尿ペプチド拮抗薬であるHS-142-1(HS)前処置下のBMSおよびACE阻害薬Alaceprilの血圧及び腎機能に対する影響を比較検討した。BMSの静脈内投与により、平均血圧は全てのモデル動物において顕著に低下した。しかし、2K-1Cでは投与後30分からほぼ最大に降圧し持続したが、他のモデルでは経時的な低下が観察された。また、2K-1Cを除きBMSにより尿量尿中Na排泄量は顕著に増加した。尿浸透圧はWistar、SHR、DOCAで低下したがDSで上昇した。尚、これらの変化は尿中cGMP排泄量の増加および血中cGMPの上昇を伴った。DSにおいて、HS前処置によりBMS投与による降圧は減弱され、尿量の増加を抑制したが、尿中Naの増加には影響を与えなかった。他方、Alacepril投与では顕著に降圧し、尿量を変化させず尿中Na排泄量を増加させた。以上の結果より、BMSの作用は各高血圧モデルにおけるACE阻害またはNEP阻害による感受性の差異に起因することが推測され、いずれのモデルにおいても顕著な降圧作用ならびに水・ナトリウム利尿作用を有することから、BMSはより適応範囲の広い降圧薬となり得ることが示唆された。