研究課題/領域番号 |
09557212
|
研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
宮本 篤 札幌医科大学, 医学部, 助教授 (50166196)
|
研究分担者 |
大鹿 英世 札幌医科大学, 医学部, 教授 (50045358)
|
キーワード | 老化 / 細胞情報伝達 / 学習・記憶障害 / 向知性薬 / ピラセタム / NMDA受容体 / 膜流動性 / C57BL / 6Jマウス |
研究概要 |
本研究では、加齢に伴い学習・記憶障害を自然発症する長寿命な生理的老化マウスを求めた結果、雄性C57BL/6Jマウスで興味ある成績を見出し、老齢の学習・記憶障害動物における生体膜老化と情報伝達機構破綻との関連に焦点をあてて検討した。(1)長寿命系雄性C57BL/6Jマウスの行動薬理学的および分子薬理学的特性:ステップスルー試験によりC57BL/6Jマウスの記憶保持率は、加齢と共に低下することが確認された。そこで行動薬理学的評価後、C57BL/6Jマウスの大脳皮質および海馬から得られた粗膜画分において膜流動性およびNMDA受容体の結合性質を検討した。大脳皮質や海馬膜標品での膜流動性あるいはNMDA受容体数は、加齢に伴い低下していた。特に老齢の記憶障害群と記憶保持群の比較では、明らかに両膜標品において違いが認められ、記憶消失群で膜流動性やNMDA受容体数の低下は顕著であった。(2)長寿命系雄性C57BL/6Jマウスに対するピラセタムの影響:4および28か月齢のC57BL/6Jマウスをそれぞれ4群(10〜13匹)準備し、老化に伴う記憶保持率低下に対するピラセタム投与(8週間)の影響を検討した。6および30か月齢マウスでの生理食塩液10ml/kg、ならびにピラセタム300mg/kg投与によるステップスルー試験では、L-naiveおよびL-beforeの反応潜時に顕著な変化はなかった。また6か月齢マウスにおける再生試行時の長期記憶保持(300秒以上の割合)は、いずれの薬物投与によっても影響されなかった。しかしピラセタムの長期投与は、30か月齢マウスの再生試行時における記憶保持低下(記憶障害)を顕著に改善させることが認められた。また、対照としての生理食塩液投与群で老化に伴う記憶障害はほとんど改善されなかった。老化に伴う記憶障害群で観察される大脳皮質および海馬膜標品での膜流動性低下は、ピラセタム長期投与により明らかに改善され、NMDA受容体数の低下は改善される傾向であった。C57BL/6Jマウスは老年期痴呆解明の動物モデルとして有用なばかりでなく、脳老化-情報伝達異常-学習記憶障害に関する研究や痴呆関連治療薬の研究を効率的に推進する上で大いに役立つものと期待される。老化に伴う記憶障害には、膜流動性低下に伴う情報伝達異常との相互関係が考えられた。向知性薬ピラセタムの記憶障害改善作用には、老化に伴い低下した脳内膜流動性を回復させることが関与しているものと推定された。
|