学習・記憶障害モデルは、抗痴呆薬を開発・研究するために最も重要なウェイトを占める。加齢に伴い学習・記憶障害を自然発症する長寿命な生理的老化マウスを求めた結果、雄性C57BL/6Jマウスで興味ある成績を得た。(1)長寿命系雄性C57BL/6Jマウスの行動薬理学的および分子薬理学的特性 : ステップスルー試験によりC57BL/6Jマウスの記憶保持率は、加齢と共に低下することが確認された。C57BL/6Jマウスの大脳皮質や海馬膜標品での膜流動性あるいはNMDA受容体数は、加齢に伴い低下していた。特に老齢の記憶障害群と記憶保持群の比較では、記憶消失群で膜流動性やNMDA受容体数の低下が顕著であった。(2)長寿命系雄性C57BL/6Jマウスに対するピラセタムの影響 : 向知性薬ピラセタム(200mg/kg)の長期投与は、30か月齢マウスの再生試行時における記憶保持低下(記憶障害)を顕著に改善させることが認められた。老化に伴う記憶障害群で観察される大脳皮質および海馬膜標品での膜流動性低下は、ピラセタム長期投与により明らかに改善され、NMDA受容体数の低下も改善された。(3)長寿命系雄性C57BL/6Jマウスに対するニューロステロイドの影響 : ヒト・サル・マウス血漿のデハイドロエピアンドロステロン(DHEAS)は、加齢とともに著しく減少する老化マーカーである。ニューロステロイドとしてのDHEASあるいはプレグネロン(PS)(20mg/kg)の長期補充療法は、受動的回避試験において老化に伴う記憶障害を共に改善したが、PS投与群の改善作用の方が顕著であった。これらの事実からニューロステロイドは中枢神経において種々の神経情報伝達を調節している可能性があり、老化に伴う情報伝達機構破錠と記憶障害との関連が示唆された。生理的老化C57BL/6Jマウスは老年期痴呆解明の動物モデルとしてばかりでなく、脳老化-情報伝達異常-学習記憶障害に関する研究や痴呆関連治療の研究を効率的に推進する上で非常に有用であると考えられた。
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