精神分裂病は、精神機能低下とともに思考、知覚、感情および行為等の障害を含む精神病症状を特徴とする慢性的精神障害である。陽性型および陰性型ともに、40歳前後に発症してその兆候が長期間持続する慢性傾向を示す。これらの長期的な神経機能変動に、特定の機能蛋白質の「de novo」生合成変化が関与する可能性は十分に考えられる。真核細胞では、機能蛋白質生合成は遺伝子転写レベルでの調節を受ける場合が多いので、本研究では各種転写制御因子DNA結合能の信号応答性を指標に、長期的神経機能変動メカニズムを解析することとした。つまり、各種転写制御因子が認識するコア塩基配列を含むオリゴヌクレオチドを合成後、DNAポリメラーゼIのKlenowフラグメントを用いて・[^<32>P]α-ATPにより標識したのち、マウス全脳細胞各抽出液と反応させた。反応液を、ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動後、オートラジオグラフィー法により結合プローブを検出した。その結果、同細胞核抽出液中に強いTRE配列(TGACTCA)およびCRE配列(TGACGTCA)の認識活性が存在することが判明した。両結合は、非放射性プローブの添加により濃度依存的に阻害されたが、各コア配列にポイントミューテーションを導入した場合は、結合に対する阻害活性が消失したので、今回検出されたDNA結合能がそれぞれのコア配列を特異的に認識する蛋白質に由来することは明らかである。次いで、陰性症状発症との関連性が考えられるN-methyl-D-aspartate(NMDA)を投与すると、脳内特定部位でも特に海馬において、著明なTRE認識活性の上昇が観察されたが、同部位のCRE認識活性はNMDA投与に伴う著明な影響を受けなかった。したがって、NMDA投与はTRE配列を認識する転写制御因子のDNA結合能上昇を介して、特定の機能蛋白質の生合成変化を誘発し、その結果長期的な神経機能変動を招来する可能性が示唆される。
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