精神分裂病の陰性症状(II型)発症との関連性が考えられるN-methy1-D-aspar tate(NMDA)をマウス腹腔に投与したのち、転写制御因子Activator protein-1(AP1)のDNA結合能を、昨年度に開発したゲルシフトアッセイを用いて測定したところ、種々の脳内部位の中でも特に海馬において著明な上昇が観察された。この上昇は一過性であり、投与2時間後では認められたものの投与4時間後には消失した。さらに、この海馬内一過性AP1 DNA結合能上昇では、NMDAチャネルブロッカーの前処理で完全に消失しただけでなく、蛋白質生合成阻害薬のシクロホスホミドの前投与によっても有意に阻止された。この時に、AP1構成蛋白質の一つであるc-Fos蛋白質の発現を、イムノブトッティング法を用いて測定したところ、AP1 DNA結合能上昇に一致して海馬内に一過性c-Pos蛋白質の発現が観測された。しかしながら、AP1と同じロイシンジッパー型転写制御因子であるcyclic AMP response element binding protein(CRBB)やc-MycのDNA結合能は、いずれの脳内部位においても、NMDAを投与に伴う著名な変化を示さなかった。さらに、NMDA投与は海馬内抗CREB抗体陽性蛋白質の発現に対しても著明な変化を与えなかった。したがて、NMDA投与はTRB配列を認識する転写制御因子AP1のDNA結合能上昇を介して、特定の機能蛋白質の生合成変化を誘発し、その結果シグナル入力が長期間海馬に固定される可能性が示唆される。
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