研究課題
基盤研究(B)
本所新素材開発施設にあるタンデム型コッククロフト加速器に、PIXEラインを設置した。プロトンビームで破壊しやすい無機試料[CaF_2(1nm)/LiF(33nm)/Cu(100nm)]を使用した実験で、全反射入射のビームで全く試料は破壊されず、繰り返した実験でも全く変化のない干渉縞が得られた。一方、垂直入射では2回目からは干渉縞を得られず試料が破壊されてしまった。また、全反射入射の方のS/Nが1桁程度良いことも判明した。次により破壊しやすい生体高分子試料を使用し、基盤を液体窒素で冷却してその効果を検証した。Cr基板上にタンパク単層膜(抗体)を吸着させた。抗体のS-S結合の位置を検出するため、全反射PIXEで放出されるイオウ(S)の特性X線の取り出し角分布を測定した。試料基盤の温度を-30℃に保ちながら測定した結果、3つの測定値(全膜厚、Sのピーク位置、Sの分布幅)は再現性よく得ることができたが、+10℃では1回目の測定値が-30℃より大きく、2回目、3回目と大きくなる傾向は変わらなかった。すなわち-30℃では生体高分子膜の非破壊計測が可能であり、+10℃では試料が徐々に破壊されることが示された。さらに、トンネル接合巨大磁気抵抗(TMR)素子の温度変化を調べた。TMRは強磁性体の間に薄い絶縁体を挟んだ形態をもち、熱拡散等によって絶縁が破られると効果がなくなるとされている。TMRを模して、Co(10nm)/Al_2O_3(1.5nm)/Fe(100nm)多層膜をSi基板上に作製し、100〜600℃で熱処理した。その結果AlのX線取り出し角分布は約400℃付近から変化があった。これは抵抗測定の結果とよく一致した。以上のように、全反射PIXEを応用した本法は、特に軽元素に対して高感度であること、破壊しやすい生体膜の構造解析にも応用できること等、優れた特徴があることが判った。これらは現在論文作成中である。