研究概要 |
フルオロデオキシウリジンはチミジル酸合成酵素の阻害剤であり,染色体脆弱部位を誘発することが知られている.この薬剤処理の結果,細胞内チミンヌクレオチドプールの枯渇が起こり,ヌクレオチドプールに深刻な不均衡が生じる.このストレスは,葉酸感受性脆弱部位の生成と関連していると考えられているが,詳細な機構は明らかではなかった.本研究では,脆弱部位の少なくとも一部が,誤って染色体に取り込まれたウラシルに由来するものと考え,これまでに開発してきたARP法を応用することにより,ウラシルの検出を行った.国産ネコの皮膚より樹立した培養繊維芽細胞を,フルオロデオキシウリジン,続いてカフェインで処理し,染色体DNAを抽出した.DNAをウラシルグリコシラーゼで処理しない場合は,自然デプリネーションに由来する脱塩基部位が1万ヌクレオチドあたり約2.7個の割合で検出された.一方,過剰量のウラシルグリコシラーゼ処理により含まれるウラシルを脱塩基部位に変換し,ARP法により定量した結果,1万ヌクレオチドあたり約4.9個の脱塩基部位が検出された.この結果は,染色体脆弱部位が生じる条件下において,染色体中に存在するウラシルの量が明らかに増加することを示すとともに,今後,ARP法が種々の研究分野へ応用される可能性を示唆したものである. ARP試薬の広範な応用を目指して,試薬の合成法の開発と応用研究を重ねてきたが,平成10年度に新製品としてDOJIN社より市販されるに至った.ARP試薬と標準DNA,DNA固相化プレートを組み合わせることによりキット化し,より簡便な遺伝子損傷検出システムを開発していく予定である.
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