研究概要 |
下水処理水の再利用の様々なオプションを中心に、それが及ぼす様々な影響を定量的に評価する手法を確立し、それを基に、具体的流域のケーススタデイーを通して、都市の種々の水循環システムのLCAを行い、実際に流域で現在及び将来実現可能性を持つ様々な水循環システムの形態へ適用することにより、都市水循環システムの総合的評価手法を開発することを目的として、研究を行った。本年度は、前年度までに確立した評価手法を用い、多摩川流域をケーススタデイーとして、遺伝子損傷性及び抗生物質耐性菌に関する水質調査を行い、その観点からの水環境質評価を行った。多摩川河川水中の抗生物質耐性菌の存在率は、都市排水或いは下水処理水が流入することにより増加し、潜在的リスクとして十分注意すべきであること、また一方親水空間創造の有効な方法として下水処理水の活用は魅力的であることから、高度処理のレベルはますます高くならざるをえないことなどが示された。遺伝子損傷性についても、河川水から検出され、今後の河川水質を議論する上で、本研究で提示した新たな指標により評価手法を導入する必要が示唆された。下水処理水を再利用する場合、未認知リスクとして何を評価するべきかが最大の問題であるが、本研究で取り上げた遺伝子損傷性及び抗生物質耐性はその代表指標になると考えられる。実際の遺伝子損傷性や抗生物質耐性或いは内分泌撹乱物質を含めても、それを処理する技術として、将来有望であるのが低圧ナノ濾過法である。従って、高度処理として、ナノ濾過技術を導入した場合のLCA(ここではLCCOST,LCE,LCCO_2に焦点をあてた)を、多摩川流域を対象に、様々な水循環システムオプション(シナリオ)について検討した結果、河川水の循環利用をはかり流域での水道供給の自給率を上げつつ、また高度処理を導入して人への健康リスクを削減する方策は十分に検討に値することが示された。
|