本研究では人畜に無害である昆虫病原細胞Bacillus thuringiensisの殺虫性タンパク質を素材として、イムノトキシン型の新しい殺虫性タンパク質を遺伝子工学的手法で作製する事を目的とし、その目的遂行のための様々なノウハウの蓄積を目指した。 具体的には、まず、まだBTに由来する有効な天然型殺虫性タンパク質が知られていないカミキリムシを殺虫対象モデルと設定した。次に、カミキリムシの消化管(中腸)細胞の細胞膜上に結合するモノクローナル抗体を多種類準備し、それらを元に遺伝子工学的に一本鎖の組み換え型抗体を多種類作製した。さらには、カイコに有効な殺虫性タンパク質のさまざまな部分を大腸菌で組み換え型タンパク質として産生する系を作製した。最後に、これらの部品を一本鎖の組み換え型抗体の結合性を損ねずにつなげる方法を開発した。 一方、最終的には、殺虫活性に一番大きな影響を持つのは抗体と標的細胞上の分子との結合の強さや、その標的分子の性状(数、大きさ、形など)であると予想される。そこで、抗体の標的として選ぶべき分子の性状を明らかにする目的で、BTの本来の殺虫性タンパク質が標的としている分子(受容体)とその性状に関して調査した。その結果、カイコとそれに殺虫活性をもつCry1Aa型殺虫性タンパク質の組み合わせでは、消化管細胞膜上のアミノペプチダーゼNが受容体であり、そのN末端側の約60アミノ酸残基から成る部位に殺虫性タンパク質が結合することが明らかになった。また、その部位の構造は昆虫間で多少異なっており、このことが殺虫性タンパク質の活性スペクトルを決定すると考えられた。さらにまた、幾つかの殺虫性タンパク質について調べた結果では、それらの全てがCry1Aa型殺虫性タンパク質と同様にアミノペプチダーゼNを受容体として利用していると考えられた。
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