研究概要 |
Dセリンは脳特異的な内在性のD体アミノ酸で、NMDA型グルタミン酸受容体のストリキニン非感受性グリシン結合部位を認識するモデュレーターとして知られている。本研究以前にNMDA受容体のアンタゴニストであるPCP(1-phenyl cyclohexy1 piperidine)投与により齧歯類で運動失調が誘発されること、及びDセリンがPCPで誘発される運動失調を抑制することを見いだしていたので、本研究ではDセリン誘導体(Dセリンエチルエステル、Dサイクロセリン)の運動失調症改善作用の有無をシトシンアラビノシド処置により作製した小脳変性マウス並びにreeler,pcdなどの遺伝性小脳変性マウスを用いて検討した。運動失調の重篤度の指標にはオープンフィールド法により算出された転倒指数を使用した。当該研究期間中、Dセリンエチルエステルの腹腔内投与により小脳における細胞外Dセリン濃度が3時間以上に渡って上昇持続すること、またシトシンアラビノシド処置マウス、遺伝性小脳変性マウス(reeler,およびpcd)のいずれにおいても用量依存的にDセリンエチルエステル投与により転倒指数が改善することをまず見出した。さらに、Dセリン誘導体の効果がD体に特異的であることを確定し、その効果の大部分が確かにNMDA受容体を通してのものであることをストリキニン非感受性グリシン結合部位のアンタゴニストである5,7-dichlorokynurenate(DK)を使用して確認した。すなわちDセリンエチルエステルの効果はDKの同時投与により消失した。またDセリンに類似したDサイクロセリンにも運動失調改善作用が存在することをシトシンアラビノシド処置マウスを用いて発見した。このDサイクロセリンの運動失調改善作用は抗結核薬として使用される量よりも低量で認められた。 以上の結果よりDセリン誘導体による新規の運動失調症療法を動物レベルで開発・確立した。
|