われわれは特定遺伝子の機能の抑制あるいは機能の発現を特定の神経細胞に対して実現し、シナプス伝達の分子機構を明らかにしたいと考えている。神経細胞は脆弱な細胞であり、遺伝子の発現実験にしばしば用いられるCos-7などと比べると、はるかに扱いにくい細胞である。そこで、分子生物学で遺伝し導入に頻繁に用いられているElectroporationを改良し、単一細胞に電気パルスを与え細胞内へ物質導入を可能にする手段として微小レベルでのElectroporation法、すなわちMicroelectroporation法を開発する。本年度は分子量3K-10Kまでのdextran包合型の蛍光色素をMicroelectroporationによって特定の神経細胞に導入する事を試み、巨大分子導入のアルゴリズムを研究した。アルゴリズム開発の第一に、電気パルスのプロトコールを検討した。細胞に密着したガラス管に対して0.4V500Hzの電圧を0.5秒間与え、細胞内導入に成功した。この方法では、細胞膜に密着したガラス管に直接電圧を加えるために、10Vを越す電圧パルスを1msec程度加えることで確実に細胞膜が破壊され、細胞死が起こる。したがって、印加電圧強度と持続時間を精密にコントロールして最適の状況を設定する必要がある事が解った。今後、細胞膜に加わる実効電圧をガラス管先端の抵抗をモニターしつつ制御するための装置を完成させたい。現状ではMicro-electroporationはイオン強度を下げた溶液中で行っている。さらに、正常リンゲル液中でも試みMicro-electroporationを脳の切片標本など広い対象に応用したい。
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