研究概要 |
本研究では3年間に亙り細胞を引張った際の内部構造の変化を,張力変化と同時に顕微鏡下に明瞭に観察できる装置の開発を進めた.顕微鏡(BX50WI,オリンパス)下に細胞の両端を細胞接着剤(Cell-Tak)でコートしたガラスマイクロピペット(内径3〜15μm)に吸引・固定し,一端のピペットを電動マニピュレータ(MMS-77,島津製作所)で引張った際の細胞の形状変化を詳細に計測できるようにした.また他端のピペットはカンチレバー型とし,細胞変形に伴う撓み量の変化を光学的に計測することで細胞に加わる力を求めた.画質向上のため正立顕微鏡下で水浸の対物レンズにより観察する系とした.顕微鏡の光軸方向の位置決めには鏡筒上下式のものを用いることで複雑な実験操作を可能ならしめた.Explant法で得た継代6〜7代目の培養ウシ胸大動脈平滑筋細胞(BASM)および酵素法で得たラット胸大動脈平滑筋細胞(RASM)に関し,37℃の生理的塩類溶液中で引張試験を行えることを確認した.引張速度を変えたBASMの試験結果より,ひずみ速度と細胞の弾性特性との間にはひずみ速度4%/sec以上の領域では有意な相関のあることが明らかとなった.ひずみ速度が0.2〜4%/secの範囲で行ったBASMとRASMの弾性率(公称応力-ひずみ線図より算出)を比較したところ,BASMでは3kPa程度,RASMでは12kPa程度と4倍程度高いことを見いだした.細胞採取方法の違いにより,BASMは収縮タンパクの少ない合成型,RASMは収縮タンパクに富む収縮型のフェノタイプを示していると考えられる.細胞内の収縮タンパク量の違いがこのような弾性特性の違いをもたらした可能性が考えられた.
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