研究概要 |
生命の最小単位である細胞内の膜動輸送機構は,物質輸送,エネルギー変換,情報伝達など細胞の機能存亡にとって根幹的な役割を果たしている.また細胞分裂,細胞移動,細胞膜融合にも密接に関与している.本研究では,膜動輸送機構を数値シミュレーションにより可視化し動的に解析する新たなシミュレータシステムの開発,実用化をめざす. 本年度は,汎用数理解析用プログラムMathematicaを利用し,生体細胞膜シェルの大変形解析用の独自の有限要素法開発を試み,新たに以下の知見を得た. 1. 弾性ポテンシャル関数を用いて大変形解析用有限要素法の定式化を行った. 2. 半球形生体膜シェルの大変形解析を行い,膜に圧力を印加する事により表面積一定条件を満足させ得ることを明らかにした. 3. 表面積一定条件は,変形形状に大きな影響を及ぼす.特に展開における変形形状では開口部付近の要素の伸びに対応し,表面積の増加を抑えるために小胞の形状が大きく変化することを明らかにした. 4. 物性値として,Mooney-Rivlin体型ゴム製赤血球膜解析に用いられる定数を使用した結果,変形過程における膜張力は0.003-0.18[dyn/cm]となり,既知の実験結果である0.03[dyn/cm]を支持する値を得ることができた. さらに解析的手法により,特に幾つかの小胞が連結した多重小胞の変形挙動に及ぼす面内せん断の影響を探るため,第一段階として二つの小胞が連結した二重小胞の展開形状解析を行った.その結果から新たに以下の知見を得た. 1. 面内せん断の影響を考慮した二重小胞の展開形状をはじめて理論的に求めることができた. 2. 面内せん断は,考慮するせん断係数が赤血球膜の値μ=0.66×10^<-2>dyn/cm程度で変形形状に大きな影響を与えることがわかった. 3. 開口半径が大きくなるほど,全ひずみエネルギーは高くなることが分かった.特にせん断ひずみエネルギーは,二重小胞が展開し大きな単一小胞へと形態の劇的な変化を示す付近で急激に増加することが分かった. 4. 面内せん断を考慮した変形形状の方が,実際に電子顕微鏡で観察されている形状に近いことが分かった.
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