研究概要 |
生命の最小単位である細胞内の膜動輸送機構は,物質輸送,エネルギー変換,情報伝達など細胞の機能存亡にとって根幹的な役割を果たしている.また細胞分裂,細胞移動,細胞膜融合にも密接に関与している.本研究では,膜動輸送機構を数値シミュレーションにより可視化し動的に解析する新たなシミュレータシステムの開発,実用化をめざす.本年度は,始めに幾つかの小胞が連結した多重小胞の変形挙動に及ぼす面内せん断の影響を探るため,2つの小胞が連結した2重小胞の展開形状解析を行った.その結果から新たに以下の知見を得た. 1.面内せん断は,考慮するせん断係数が赤血球膜の値μ=0.66×10^<-2>dyn/cm程度で変形形状に大きな影響を与える./2.開口半径が大きくなるほど,全ひずみエネルギーは高くなる.特にせん断ひずみエネルギーは,2重小胞が展開し大きな単一小胞へと形態の劇的な変化を示す付近で急激に増加する./3.面内せん断を考慮した変形形状の方が,実際に電子顕微鏡で観察されている形状に近い. 次に周辺細胞膜の影響を考慮したより実際的な力学モデルの解析を行い,新たに以下の知見を得た. 1.単一小胞の場合は,開口半径の増加に伴い始めに小胞部分が上昇し,次にくびれが消失し,徐々に完全な平面膜に展開していく.2重小胞の場合は,小胞やそれに近い形状が維持される区間は,開口開始後のごく狭い範囲にあり,この間では開口半径の微小な増加で展開形状も劇的に変動する./2.面内せん断の影響を考慮した場合の方が,くびれ部分については緩やかで自然な形状を示し,小胞部分については下方にずり下がった形状になる./3.個々のくびれが消失する際,及び完全な円形膜に達する際にひずみエネルギのジャンプ状現象が起こる./4.面内張力は,展開過程全体を通じて比較的変動が少ないが,最後に外向きの大きな力に転じ,完全な円形膜への展開を完成させている.
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