研究概要 |
金属チタン表面をTaCl_5,SnCl_2もしくはPbCl_4を含む過酸化水素水溶液で処理し,表面に水和チタニア層を形成させれば,チタン表面に擬似体液中でアパタイトを形成する。従って,この処理は金属チタン材料に骨組織と結合する生体活性を与える新規手法として期待される。本研究では,化学処理により形成されたどの様な微構造を有する水和チタニア層がアパタイトの形成を誘起するのか,また表面に形成された水和チタニアゲルを含む生体活性層に対して,骨組織に関与する細胞がどの様な挙動を示すかを基礎的に解明するとともに,本手法の実用化への可能性を探求することを目的とする。 金属チタンの板状試片を,5mMのTaCl_5を含む過酸化水素水溶液中で60℃で24時間保持した。得られた試片を蒸留水で洗浄した後室温で乾燥させた。表面処理した試片をヒト体液とほぼ等しい無機イオン濃度,液温及びpHを有する擬似体液に種々の期間浸漬し,その表面構造変化を薄膜X線回折,FT-IR反射分光分析,SEM観察により調べる。さらに擬似体液のイオン濃度変化を高周波誘導プラズマ(ICP)発光分光法により測定した。材料表面でラット骨芽細胞株細胞を用いた細胞培養実験を行い,試片表面が骨芽細胞に与える影響を調べた。一方,円柱状の金属チタン試片に同様の処理を施し,家兎脛骨に埋入し,一定期間経過後骨組織との結合強度をPush out試験により評価した。その結果,金属チタン表面のアパタイト形成には,タンタル酸水和ゲルの共存がきわめて有効なことが明らかとなった。試料表面での細胞増殖能は本処理により低下するが,アルカリフォスファターゼ活性は向上した。さらに表面を本手法により化学処理した金属チタンは,未処理の金属チタンに比べ,8週以内により高い結合強度を示すことが明らかになった。
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