本研究は、文化論としての「翻訳論」のありかたを明らかにすることを目的をしている。本年度は、翻訳とジェンダーとの関連という問題系を中心にして研究を行った。そのために、ふたつの分野にわたって資料収集と分析を行った。 第一の分析対象は、エ-ディット・シュタイン、マルガレ-テ・ズスマンといった20世紀前半のドイツ系の女性哲学者たちの著作とエリーザベト・リスト、エファ・マイヤー等の現代の女性哲学者の著作である。両者の概念性を比較対照することで、50年間をはさんでのドイツ女性哲学者たちの間に、どのような受容関係があるかをみた。とりわけ、「身体」「ジェンダー」「主体」「普遍性」といった問題について、旧来の問題設定なり概念構成を脱却するために、どのような解釈上の手続きが行われているかを調べた。ドイツにおいてはジェンダー問題の意識化は、旧来の哲学的ディスクールにたいする明確な批判的視点というかたちをとらずに、むしろ文学的表現の転用や感情性の強調のかたちで行われていることが明らかとなった。 第二に、異文化理解とジェンダー問題との関連についてドイツの日本学研究者と日独共同討議を行った。テーマとなったのは、空間意識と社会帰属との関係、女性の身体性についてのことわざ、ドイツ・ロマン主義における「女性的なもの」のイメージ、女装とジェンダーの問題である。この共同討議の成果は機会を改めて詳しい報告を行う予定である。
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