研究概要 |
本研究は、ギリシア的観照や科学的知識論のモデルの下に,ともすれば非学問的かつ非生産的とみなされてきた「倫理学(エチカ)的人間論」を再反省・再構築する目的で始められたものである。そのため従来の知見・思潮と異なる源泉から発想と新たな表現を得ようとし,ヘブライ思想やキリスト教教父(特にギリシア教父)の研究を基礎的研究としてたてた。この方の研究はヘブライ語やギリシア語の原典解釈としてすすめられ,雑誌「エイコーン」にその成果が発表された。本邦においては東方教父関係の研究書として唯一の「エイコーン」誌は,さらに続刊されている。これに加え,ヘブライ的言語論の共同研究は,東大出版会刊「聖書の言語を超えて」においてその成実を示した。特に「たとえ」「メタファー」言語の解釈は,この方面で反響をよんでいる。他方で,現代哲学・倫理学の関心,「死」のテーマは,ヘブライ的ギリシア的教父の思索にうちうちされて,「深き淵より」という論文に扱われている。以上の基礎的研究を多年にわたってつみ重ねてきた研究者は,3月発刊予定の「哲学・思想辞典」(岩波書店)に結集され,古代・中世研究を現代思潮圏にひびかせうる成果をあげうると信じられる。以上に加え,国内においては九州大学,高野山などでの数次の研究合宿が行なわれて,研究交流に厚みがまし,この分野では数少ない研究者にとって大いなる刺激となった。また海外の研究者との交流も盛んで,国際中世哲学会との連絡も密となり,本研究の将来的場を披いている。
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