本研究は、ギリシア的鑑照の精神に基礎をおく現代的知識論のモデルの下に成立した人間論とは異なる「倫理的人間論」の構築を目指す。それはアドルノというアウシュヴイッツ以降の西欧ヒューマニズム崩壊をふまえた人間論であって、その源泉は日本でも従来未開拓の分野であったギリシア教父哲学とヘブライ思想を主とする。勿論、哲学倫理学の今日的最前線の動向をにらみつつ、である。そのため、まずギリシア教父の研究を深め、雑誌「エイコーン」が10年20号の刊行によってさらに充実し、諸研究者を集めている。本邦ではこれだけ続いたギリシア・東方思想の雑誌はない。これに加えて、ヘブライ思想の研究も進展し、現代のアジアの西欧のキリスト教思想も考慮して『地球化時代のキリスト教』の刊行に結実した。そこでは、ヘブライ思潮を起点として、日本のキリスト教文学や現代のヘブライ思想までも紹介されている。さらにギリシア、ヘブライ思想の共同研究の成果として聖徳大学総合研究所から「創世記」の研究も発表された。以上の共同研究は岩波書店の「哲学・思想事典」において、現代との対話という形態で結実している。以上の研究に加え、11年度は「宗教的意識」をテーマにカナダの研究者、仏教研究者との交流もなされる予定である。この場において国内の諸分野の研究者、海外の研究者との交流がはかられ、言語論、解釈学、ポイエーシス論、倫理などのテーマが深められることが予想され、本科研費の研究活動とその成果に厚みを加え、寄与するところが大きいものと思われる。
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