研究概要 |
1 設備・備品については,研究代表者の所属する上越教育大学の藤沢研究室の情報処理関連機器の充実,および研究課題関係図書,主としてギリシャ哲学・倫理学関係図書の購入に当てられた。また,旅費については,東京での打ち合わせを2回行うとともに,研究分担者は北海道大学にて,また研究代表者は東京大学にて,それぞれ資料調査・収集を行うのに当てられた。 2 1による活動ないし機器の支援を得ながら,研究を進めた結果,研究代表者は次のような知見をえた。プラトンの『国家』における市民の生存益は,おおむね二つの文脈において論じることができる。一つは生存益の外的制約であり,それは主として体育と医術の協力関係という文脈で論じられる。それは国家を成立させている枠組みを自壊させないための条件として機能する制約である。そして,今一つは生存益の内的制約と呼ばれるべきものであって,その核心に「身体の所有」という問題を内包している。この内的な制約の表現は,犯罪の加害者と被害者における賠償の特定化という問題において,プラトンが十分な取り扱いをしていないこととして,また,結婚と子作りの国家管理にあたる支配者に関る虚偽意識の問題として,それぞれ登場しているように思われる。 3 研究分担者は「術の類比」の射程に関する研究」を『国家』第一巻を中心に行った。すなわち,(1)ケパロス,ポレマルコス,トラシュマコス等の登場人物の「正義の誤り」の分析,(2)「正義の技術」という考えの分析,(3)「報酬獲得術」という特異な術の位置づけ,等の研究を行った。 研究代表者は研究成果の一部を論文「プラトン『国家』における市民の生存益について」として発表し,分担者は論文の準備中である。
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