研究概要 |
今年度は、主として二つの方向からこの研究課題に基づく研究を遂行した。 1, 第一の方向は、古代ギリシアの自然をめぐる思考、とりわけプラトンとアリストテレスとの〈自然〉と規範との関係の理解のあり方を、現代の自然主義と俯瞰的視点から対比することである。この考察を通じて、プラトンとアリストテレスはともに、自然科学によって捉えられたもののみが自然であり基本的存在者であるという現代の「自然主義」とは異なり、それに対抗する知見を保持している点で共通するが、しかし他方で、プラトンが自然全体への価値の浸透を認めるのに対して、アリストテレスは価値や規範の自律性を主張する点で両者は異なることを確認した。 2, 第二の方向は、アリストテレスの言語哲学と心の哲学の解釈史を辿り直し、自然主義的思考にとってその説明が課題となっている「志向性」の概念の成立をめぐる基本問題を確認した。それによって、アリストテレスが言語の表示対象と考えた「思惟されたもの」noemaが、 「パンタシアー」(表象)phantasiaと重ねられ、さらに心的な像として心理主義的に解釈されていく過程を、とくに新プラトン主義者のアリストテレスへの注釈のなかに具体的に確認し、そのような解釈を支える新プラトン主義内部の哲学的背景を解明した。この作業を通じて新プラトン主義的数学論の重要性を明確化するとともに、そのような新プラトン主義的な言語と心の理解が、いわば因果性を拒否するという思考の線上において志向性の概念を準備する一つの水脈となっていることを、その問題点とともに展望した。
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