本年度は、この研究の最終年度として次のような研究をおこなった。 (i)現代の自然主義を、昨年度に引き続いて志向性の概念を手がかりに分析し、この概念の理解の一つのモデルを提示したChisolmの見解を検討するなかで、「誤る」「誤って表示・表象する」misrepresentationという事態をどのように説明するのか、ということが自然主義を評価する上で要となることを見届け、その問題の重要性をDretskeなどの議論を通じて追跡した。(ii)この「誤る」ということの可能性を、自然主義的な思考との対比のもとに追求した思考が、最も原理的な形でアリストテレスのとくにパンタシアー(phantasia)論(及びその解釈のあり方)に見られることを確認し、古代以来のさまざまな解釈を批判して、アリストテレスにおいて「誤る」ということの可能性が人間の言語活動と密接に連関していることを示し、この問題を考える上での基本的視座を得た。なお、このパンタシアー論をはじめとして、現代の心の哲学における自然主義を考える上で、多くの貴重な示唆を含むと考えられるアリストテレスのDe Animaについては、テキスト校訂や注釈を伴った翻訳を、以上のような本年度の研究成果を生かした形で2000年中に刊行予定である。(iii)また、この研究において古代の自然観が考察の手がかりとされたが、その「古代の自然観」という概念そのものに対しても、相対的意識が必要ある。このことを、古代哲学者の「断片」の集成が19世紀においてどのような見方によって成立したのかを解明した。また、および古代における「哲学史的記述」をはじめて試みたアリストテレス自身がどのような視点をもってそうしたのかということを考察し、ここでも、思考の成立における言語活動の重視という視点が基盤にあることを明らかにした。
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