研究概要 |
平成11年度においては以下の研究を行った。 平成9年度からの「意味の全体論」に関する研究をふまえ、これまでの研究の総括として、本年度は、社会の意味的統合としてのナショナリズムや歴史主体の問題を扱った。一般には多文化主義が「国民国家」やナショナリズムと対立的に捉えられているが、この現象的な対立は、ナショナリズムの変容過程と見なすべきである(参照、別所論文「多文化主義の落とし穴:「国民国家」との新たな付き合い方を求めて」〔島根、寺田編『国際文化学への招待』新評論、1999年,p.45-66〕)。そしていま日本で行われている戦争責任・戦後責任をめぐる議論を素材にして、日本人の「われわれ」意識が、新しい歴史主体を模索する「共同体物語」の変容として成立する可能性を考察した(参照、別所論文「「日本人として」謝罪する論理」〔安彦・中岡・魚住編『戦争責任と「われわれ」』ナカニシヤ出版、1999年,p.115-139〕)。 さらに本研究の総括である「研究成果報告書」では、上記のテーマをさらに掘り下げ、日本における歴史主体の成立について、「公共性」概念の再考、とりわけH.アーレントの『人間の条件』における公共性論の分析と批判を通して、日本の「戦後的思考」状況のなかで論じられる。歴史家による戦争責任問題の捉え方の変化をも考慮に入れ、日本の戦争責任問題を加害者問題に限定するのではなく、むしろ加害意識と被害意識の枠組みそのものを再構築することによって、戦争責任問題に適切に対応することのできる、日本人の新たな共同体意識の形成の可能性を探っている。
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