研究概要 |
研究課題について以下の研究成果をえた。 共有知識という概念を導入したのは哲学者のデービッド・ルイスである(1969)。ルイスの分析は,人間の認知能力の限定性を強く意識するという意味でプラグマチックであった。 (1) ルイスの観点から,オーマン(1976)以降のゲーム理論における共有知識の形式的分析を批判的に検証した。認識論上の問題は,標準的な分析が依拠する認知論理の公理系のもつ問題性に集約されることを確認した。 (2) ゲーム理論を応用しようとする実際的観点から,ゲーム理論の分析は人間の認知能力の限定性を考慮すべきであるとする立場は,ゲーム理論では「限定合理性」(bounded rationality)と呼ばれる。この立場から見て認知論理の公理系の中で最も大きな問題を含むのは「バルカン公理」(単調性の要請)である。この公理が共有知識の分析において鍵として機能することを確認した。 (3) 認知論理の諸公理のなかで認識論的観点から最も興味をひくのは「真理の公理」であろう。ゲーム理論においてこの公理を(したがって「真理」の概念を)いかに解釈すべきかについて考察した。ヒューム以来のエポリアである帰納の問題に対する一定の解釈を基礎に,ゲーム理論において真理の公理を拒否する決定的理由は認識論の中にはない,それはたとえばプラグマチズムと矛盾しない,ことを見出した。 (4) バルカン公理を要請しない弱い知識モデルである認知論理 E を基礎に置く共有知識およびナッシュ均衡解の解析が可能であることを示した。
|