本研究は〓惑星に関するこれまでの研究成果を踏まえ、他の惑星(辰星・太白・歳星・鎭星)と「予言」との関係を探ることにより、科学としての天文学を中国社会思想史的観点から再構成しようとするものである。今年度は、『史記』『漢書』『後漢書』中の惑星の記録を抽出して整理し(設備備品・消耗品費・研究補助謝金)、それらが現実政治にいかにかかわっているか、特に『漢書』以来の「五行志」に見られる「予言」的記録と惑星との法則性を探るために、内外の中国科学史の研究者から専門的知識を享受した。関西大学文学部教授橋本敬造氏と神奈川大学中山茂氏(国内旅費)、Needham Research InstituteのJohn Moffet博士とKen Brashier博士、(以上、ケンブリッジ大学)、SOAS(ロンドン大学)のChristopher Cullen氏を訪ねて数々のご教示をいただき、更にOriental StudiesのDavid L.MuMullen教授(ケンブリッジ大学)からは本研究に興味を抱いているイギリス人の若手研究者を紹介された。また、Needham Research InstituteのEAST ASIAN HISTORY OF SCIENCE LIBRARY(東亞科學史圖書館)ではアメリカでの最新の研究文献を見ることができた(外国旅費)。 今年度の研究において、惑星の運行記録が告げる「予言」に吉がないこと、しかも唯一惑星とされる歳星も、歴史書には吉星としてのイメージは乏しい予言記録ばかりがあることなどから、古来の星占が漢代に入って変容した結果であると考えられ、占星術は災異説の思想的基盤ではなかったかと予測される。 来年度はDavid Pankenier教授(スタンフォード大学)・Wang Aihe教授(ハーバード大学)・黄一農教授(台湾新竹清華大学教授)と連絡をとりながら、古代中国における占星術の変容を漢代思想史上に明らかにする。
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