平成10年度の研究実績は以下の4点にまとめられる。 1. 昨年度に引き続き、アッシュル神の起源とアッシリアの歴史についての研究を進めた。その結果、神アッシュルは、W.G.ランバートが主張したように都市アッシュルの神格化なのではなく、土地アッシュル、すなわちアッシリアの神格化であることを唱える。古代メソポタミアの他の都市では、それぞれの守護神が征服者によってつれ去られる子とによってその都市は没落する。しかし神アッシュルは土地であるため、つれ去られることがない。またいくら王朝が交替してもその場所がアッシュルであるかぎり、アッシリアは存続する。それが、古代オリエント世界にあってアッシリアが1400年という長寿を達成した理由と考える。これらの知見の一部は、『世界の歴史1人類の起原と古代オリエント』(中央公論社1998年)と、「アッシリアの自己同一性と異文化理解」『岩波講座世界歴史2オリエント世界 7世紀』(岩波書店1998年)に発表した。 2. 古代メソポタミアにおいて太陽(神)の図像表現が時代と地域によってどのように変化していったかを跡付け、特にアッシリア(北メソポタミア)で顕著な有翼太陽の図像について新しい知見を得た。その一部については、宗教史研究会(1998年12月)において「古代メソポタミア太陽神の図像 アッシリアへの西方文化の影響を中心に-」と題して口頭発表を行った。 3. 昨年度に続いて、キュルテペ(中央アナトリア)の遺跡から出土する紀元前20〜18世紀の古アッシリア時代の未発表文書の研究を進めた。 4. アッシリアで収集されたメソポタミア神話を題材とするいくつかの図像表現について検討した。
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