アッシリアの宗教について研究を進めてきたが、とりわけ以下の2点において顕著な成果をあげることができた。 1.アッシリアの宗教的自己同一性と異文化理解 アッシリアが古代オリエント世界にあって紀元前2000年から紀元前612年までの約1400年間存続するという特異な現象を可能にした最も大きな要因が、神アッシュルの属性があることを浮き彫りにすることができた。神アッシュルは土地アッシュルの神格化として発生し、常にアッシリアのパンテオンの最高位にあり続けた。アッシリアでは、土地アッシュル(後には国アッシリア)と神が同じであることによって、独特な宗教的自己同一性と歴史的自己同一性をもつことになった。時代が進むにつれてアッシリアは周辺の異文化を取り入れたが、決して自己同一性を失うことがなかった。 2.新アッシリア時代の官僚の印章図像にみる宗教性 新アッシリア時代(紀元前1000〜紀元前612年)のアッシリアの官僚によって使用された印章の銘文と図像を詳細に検討した。印章図像の多くは、印章の持ち主が礼拝者として神の前に立つ場面を示しているため、それらの分析から宗教的信仰を知ることができる。当時の官僚は顎髭のない宦官と、髭のある者の2つのグループに分けられるが、双方が崇拝対象とする神々には違いがみられなかった。双方とも崇拝される神々は同様の4つのグループ(男神、女神、男女神、有翼太陽)に分類することができた。
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