カクレキリシタン信仰の本質と、その変容をもたらした土着の諸要素が何であったのかを浮き彫りにし、生月島に存在するさまざまな信仰の中でカクレキリシタンがいかなる位置を占め、彼らの精神世界の中でいかなる役割を果たしてきたのかを明らかにするための調査を行なった。 そのためには、純粋にカクレキリシタンに関わる行事の観察だけでは不十分であり、カクレキリシタンが氏子総代や檀家総代も務めている神道行事や仏教行事、またカクレキリシタンと非カクレキリシタンの人々が一緒に参加している講組織に目を向けた。この他にも、タタル霊として生月島において特徴的なものであるといえる「死霊様」の調査に意を注いだ。 具体的には、生月全島内における調査可能な限りの仏教関係、神道関係、祀られることのないタタル霊である死霊様の祠、水神祭や家払い、荒神信仰などを含む民俗宗教関係の祭祀施設を網羅的に確認し、その由来と現在の祭祀がいかなる形態によって執り行なわれているかを聞き取り調査した。ことにカクレキリシタンとしてに信仰を現在も維持しつづけながら、あわせて檀徒総代や神社総代などをも務める人々の神霊に対する感覚を理解しようと努めた。 その結果、生月島の多様な宗教複合の姿は、これまでよく指摘されてきたような、仏教や神道を隠れ蓑にしてキリシタン信仰を維持してきたのではなく、仏教、神道、民俗宗教のベースの上にキリシタン信仰を取り込み、それらの要素を混融させながら展開させ、今日にいたっていることが見えてきた。
|