1. まず理論的・地平的な側面において。漢学は、漢字という文字とともに訪れている。一昨年度以来行い、本年度初めに、その文字の働きが口話言語に対してもつ歴史的推移について広い観点から再把握し、また思想史的位置付けをはかった(「情報史」、「思想史」論文)。 2. 漢学が日本文化でもった位置について。漢学は言語文化の中で権威的ではあるが、しかし、トータルには、文化的アイデンティティを主張するものとして漢学を吸収しつつ浮上してくる和学によってある程度追い落としが行われ、結局両者の習合的関係が成立する。その歴史的・社会的文脈、教育との関連、テキスト生成の構造と変容等について、明らかにした(「漢学」、「思想と文学」、「国学の空間観」論文)。 3. 中国文化とともに伝わった仏教・儒教の責任観念について。仏教においては、責任の内的感受において発達が見られるものの、他面で結果責任について不問に付す構造があること、儒教はそれを補うものの、生命の世話を中心関心とする責任倫理であった、正義や公正の地平では弱点をもつこと等を明らかにした(「貴任論」論文)。
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