日本漢学の古代から近代にいたる、変遷、文化的位置について、「漢学--書記・生成・権威」と題する論文を発表、初期には優位であった漢学がやがて国文学によって外縁的な地位をもつに至り、両者のシンクレティズムが日本文化を形成していることを明らかにした。この論文は、スタンフォード大学より英文版が出版予定である。また、近世については、漢学の作用を受けながら国学が生起し、それが近世の思想・宗教空間において、一種の不安定な構造を持っていること、そのため宣長・篤胤などにおいて主体性確立をめぐっての思想的模索が行われ、それが近代においても未解決の問題となって残っていること等を、「国学の死生空間と魂の行くえ」論文で明らかにした。また近代文学については、「「杜子春」は何処から来たか--中国文学との比較における新しい試み」において、芥川竜之介に対する、中国文学の影響を明らかにして、その文学的意義を論じた。その他、研究協力者との共同研究によって、中国・日本の思想史の種々の場面について、漢学およびその周辺の諸思想のさまざまな位相を明らかにすることができた。
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