今年度は、本研究の基礎作業を課題とした。桑子と鈴木は毎週継続的に行う研究会において、とくに近代の合理性と自然観の問題について討議した。その過程で議論の対象としたジョエル・ホワイトブック『倒錯とユートピア』の翻訳を桑子・鈴木共訳で青士社から出版した。この翻訳の過程で、西洋における「外的自然」と「内的自然」の理性による抑圧という観点の重要性を認識するに至った。 桑子は、「西洋的自然観と倫理的価値構造」を研究課題とし、ヨーロッパの自然観と価値の問題について考察を深めた。また研究成果の公刊では、分析哲学における他者理解およびデカルト的自然観についての考察を含む『空間と身体 -新しい哲学へに出発-』(東信堂)を出版した。研究の結果、西洋的自然観と倫理的価値構造を理解するためには、内的自然と外的自然の関係の理解の鍵になる身体の意味と身体を包む空間の意味づけの問題を考察することが不可欠であるとの認識に到達した。 鈴木は、「人間的合理性と不合理性における倫理的価値構造」を研究課題とし、人間の行為のもつ合理性を、行為に関する推論の中に現れる価値判断の役割に注目して考察した。また不合理性に関しては、『倒錯とユートピア』の翻訳作業の過程で、特に自我の抑圧に注目して研究を進め、その成果を解説として発表した。 以上のように、桑子と鈴木の共同研究は、当初の予定どおり行い、学外との意見交流も海外との交流を含めてほぼ計画にそって行うことができた。
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