今年度は、昨年度の研究成果を踏まえて、研究を進めた。中心的に研究を進めたのは、人間と自然の相関のもつ価値構造の本質を「外的自然」と「内的自然」というキーワードに着目しつつ、自然が人間の視点から「外」と「内」として論じられてきたことの起源、展開、展望についてである。この課題に関して、桑子は、行為における身体と空間の意味づけにおける価値構造の問題を、鈴木は行為における合理性と不合理性の問題を考察した。 その結果、桑子は、 「西洋的自然観と東洋的自然観の対比」を念頭に置き、世界の近代化の過程で行われた空間の再編の意味を解明することの必要性を痛感するに到った。とくに、日本の空間の再編について注目するならば、近代花の過程で導入された欧米的空間観とそれ以前の空間観との差異に注目し、それらの空間理解の衝突に含まれる価値論的意義を把握する必要があるとの結論に到った。これらの結論については、その一部を論文で発表したが、一部は『西行の風景』(NHKブックス、一九九九年四月刊行予定)その他で刊行する予定である。 鈴木は、人間的合理性と不合理性における価値構造を研究課題としたが、とくに行為を導く推論の論理的構造について理解を深めた。その結果、人間の欲求や欲望といった内的自然が価値判断の形で表現されるとき、その判断はすでに一定の制限が与えられており、そこに人間の理性による抑圧が内在しているとの認識を得た。現在、この結論を論文として発表する準備を進めている。 鈴木の転出により共同研究は以前より困難になったが、電子メール上で討論を続けており、当初の研究目標を達成することができた。さらに最終年度の研究成果の公刊に向けて準備を進めているところである。
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