今年度は、本研究の最終年度であり、平成9年度、10年度の研究をまとめるとともに、その総括から新たな論点を展開することに重点を置きながら研究を進めた。 人間と自然の相関のもつ価値構造を、「外的自然」と「内的自然」というキーワードを出発点に考察を進めた本研究では、この二つの接点を空間における身体的行為の意味の問題として捉え、空間と身体との意味づけにおける価値構造として定式化した。これをベースにし、人間を「身体の配置」と「空間の履歴」というふたつ概念から捉えることによって、新しい視点に立つ「環境の哲学」を構築するためのステップを踏み出すことができた。その成果は、日本的空間論、身体論の考察として桑子『西行の風景』(NHKブックス、1999年)で論じるとともに、さらに本研究に直接にかかわるものとしては、桑子『環境の哲学』(講談社学術文庫、1999年)にまとめることができた。鈴木は人間的合理性と不合理性における価値構造の問題を課題としたが、行為を導く推論の論理的構造についてさらに理解を深めた。 本研究は、主として東京工業大学桑子研究室を中心に行われ、研究室所属の博士課程学生による研究指導にも大いに益するところがあった。その成果として、「環境の価値構造」というタイトルのもとに、2000年度科学研究費出版助成申請を行い、来年度中に出版する計画がある(出版社は東信堂)。この研究成果によって、本研究は、「環境の価値構造」というキーワードのもとに、より具体的な展開を示すことができる。
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