研究概要 |
今年度の研究計画はほぼ予定通りに遂行されたと考えている。今年度の研究目標は「1.伝統的倫理学におけるモラルの位置づけとコンピュータ・エシックスにおけるモラルの位置づけとの相違点の比較解明」と「2.現実世界のコミュニケーション形態とコンピュータ・コミュニケーションの形態との比較」という2つの課題の追求にあったが,両課題をとりわけ教育の現場の観点からアプローチした今年度の研究は,来年度の研究に直接つながる展望をもたらしてくれた。 ただし,現在は正面からその研究成果をまとめる段階にはないと考えている。確かに今年度の成果は,いくつかの論文などに活かされたほか,まだ原稿段階にとどまっている未発表の論文としても結実したが,今年度の研究課題を直接論ずる発表の機会はあえてもたなかった。そのためには,さらに来年度の研究が不可欠だと考えたからである。 今年度の研究の中で最大の収穫となったのは,現実世界の仮想世界との構造的相違(とりわけ時間空間的な条件の相違)が直接諸概念の意味の相違につながる点が確認されたことである。たとえばネットワーク上の隈褻問題を巡って現在活発な議論が展開されているが,その問題点は隈褻の規定にあるよりも,むしろネットワーク環境のメディア特性にこそ求められる。つまり,モラルの問題そのものの検討以上に,モラルの環境の分析こそが必要なのである。 来年度は,こうした視点に立って,以上の成果をさらに深めるつもりである。
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