今年度の研究は、主として、当初の研究目的のうち、第3番目の目的(「種々のガイドラインでのモラルの分析と現実世界のモラルとの対比」)を追求することにあった。すでに、研究の枠組みは前年度に準備されていたので、今年度は、それに沿いつつ、具体的に議論を展開することを目指した。すなわち、教育の場面で、上記目的を遂行することである。 周知のように、現在わが国では初等中等教育の現場で情報教育をカリキュラム化することが予定されており、いわゆる「情報モラル」の研究が急がれている。その要請に応えるために、上記目的を、情報モラルの問題点の分析として展開したが、その成果は、年度末に開催された国際ワークショップ("The First International Workshop for Foundations of Information Ethics")において'Education of “Information Morals"and its Idora'というテーマで報告された。 この研究成果の中で明らかにされたのは、ガイドラインにおけるモラルが、行為の水準で設定されており、行為者の水準がほとんど考慮されていない点である。この点で、情報モラルは行為の規則の体系として性格付けることができるが、ここには、いくつか問題がある。それらのうち主なるものとしては、(1)現実世界のモラルにおいては行為者の観点が必須であり、たとえそれが意識されない場合が多いとしても、その支えなしには、行為の規則が規則として成立しないこと、(2)そしてとりわけ、初等中等教育という場面を考慮すれば、行為者の水準を除くモラルの教育は、その教育効果の上で十分でないことが明らかにされていること、が配慮されていない点である。 前年度そして、とりわけ今年度の研究によって、研究代表者は、今後の研究を導く大きな収穫を得ることができた。研究代表者は、これらの成果に基づいて、来年度から、情報倫理教育のカリキュラムの研究に着手する予定である。
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